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月と季節の暦
志賀勝から一言(2004年8月7日)

熱海を「月の町」に

熱海に<月>の会会員の梶さんががいらっしゃいます。今年東京で開いた「暦開きの会」や「月と芭蕉」に足を運んでくださり、「月の熱海」の構想を膨らませておられました。

7月25日(日)、この夏最初の熱海海上花火大会が開かれました。梶さんは、花火が打ちあがる親水公園の前にあるレストラン「テール・エ・メール」を会場に、「月の講演+食事+花火大会」を企画、当日のお客さんの多くは熱海以外の方々でしたが、講演したわたしも含め、このユニークなコンセプトの一晩を多いに楽しみました。

月の講演を終え、食事を楽しみ(烏骨鶏を作っておられる方も参加し、めずらしい烏骨鶏料理もたしなみました)、8時半からは待望の花火大会。その大迫力にはだれもが目と耳をおどろかされました。なにせ、レストランから至近距離で火花が打ち上げられ、大輪の花を開いたのですから。

熱海では、東の海上から見事な月が上がります。ムーンテラスと名づけられたステージも海岸に設けられています。そして貫一お宮の月と松。こんな素晴らしい背景をもっているのに、なぜ今まで月に注目しなかったのか不思議なくらいです。梶さんは今後さらに月の熱海に向けた企画を、と腹案をたくさんもっておられるようでした。

観光地の衰退というのは全国的に深刻な問題ですが、経済的な発想だけでは解決はいかんともしがたいでしょう。いや、経済的発想の横行が、今日のような衰退の一因だったといってもいい過ぎではないでしょう。

話すべき人がいて、見るべき景観があり、そして何より、土地の人が築く文化があること、それがこれからの観光地の姿ではないか、わたしはそんな話をしました。月の町・熱海。そんな夢を見た一夜でした。

ワタリウム美術館で講演

7月31日(土)の水無月十五夜、東京神宮前のワタリウム美術館で講演しました。「月暦を知る」というタイトルでした。美術館が企画した「アート的旅行学」の月をテーマにした講演会の一環で、前々回の稲次敏郎さん、前回の松岡正剛さんにつづき、最後の講演を承ったものでした。月暦の仕組みの理解に重点をおいてお話しました。

8月1日 月山満月祭

ワタリウム美術館の講演を終え、その足で月山行き夜行バスに乗りました。満月の塩を販売する三好良社が企画した月山での満月祭に参加するためでした。以前にも書いたとおり、西暦8月は満月が二回、ヨーロッパではこういうめずらしい月を幸運の月とする風習があり、二回目の満月をブルームーンという、二回とも満月を見ると幸せになる、ブドーの収穫がいい、などいわれますが(次回西暦に満月が二回ある月は2007年6月になります。33ヶ月に一度の現象です。ひと月二回の満月を幸運とするのはいかにも西暦を使うヨーロッパならではの話ですが、月と疎遠になったヨーロッパで月と親しむ風習が残っているのは興味深いことです)、わたしたちもこれに便乗(!)、というより、水無月満月を祝い、たのしみ、空海の生まれた水無月十五夜をしのんで「月の高野山」に連動する催しとしてできたらと考えました。

夜行バスのなかから見る十五夜の月が見事でした。地をはうように低く運行する夏の月を、朝までたのしみました。羽黒山麓の宿坊・田村坊に到着し、すぐに湯殿山、羽黒山をめぐる旅に出、夕刻の満月祭まで息つく間もないスケジュールでした。

満月祭は月山を望み、東側の開けた羽黒山・六角堂で行なわれました。長めの話をわたしはしましたが、参会者は三好良社社中を中心とする50人に満たない数(そのなかには、長年月暦を愛用し、広めてくださっている仙台の山本さんもいて、わざわざこの催しに参加するため駆けつけてくださいました)、そういう少ない数のときはかえって充実した時間がもてるものです。わたしは、長野県佐久町の依田さんのお便りを紹介しながら(別掲)、今日本の社会のなかで月のリズムを復活しようという動きが真剣にはじまっており、そういう時代の流れのなかでこのささやかな満月祭がいとなまれていることを聞いていただきました。

当夜の月の出は7時半。催しの進行とともに東の空がうっすら明るんできました。しかし、月は出ません。東には雲がかかっており、あるいは厚い雲なのかもしれません。

催しの最後に、宿泊先の田村坊の先達のお話を聞きました。この方はずいぶんと物のわかった人生の先達でもある方でした。催しが終わりました。

と、まさにそのとき、空が割れました。満月が上がってきたのです。(下写真、六角堂の左)

月山から見える月の出

絶妙のタイミング。そのときの人びとの感激、興奮はとても文で伝えられるものではありません。金と朱の色をした月でした。

わたしはことさら不思議を追い求める者ではなく、自然が時に見せてくれる不思議に畏敬と喜びを抱く者に過ぎません。それにしても、かくも見事な月の振る舞いはなんと表現したらよいのでしょう? ことはわたしたちの意識と行動のあり様にかかっているようです。

(各写真はクリックすると拡大します)
写真1
写真2
月山や 東に来光 月西に(左が朝日、右が満月)
写真3
写真4
月山九合目まであと少し……
ご来光から伸びる太陽柱(サンピラー)
写真5
写真6
頂上に鎮座する月山神社本宮
大人17人子供1人、無事頂上へ

ところで月山満月祭の2ヶ月前、広重が見た月を<月>の会の空見さん(俳号)も見ました。写真上手な彼女の見事な満月写真をご覧ください(月暦四月十六日=2004.6.3)。空見さんは今回の更新で、月山満月祭にちなむ写真を提供してくれました。

「さくまち図書館」オープン

お便りのコーナーで長野県佐久町の依田豊さんのお便りを以前掲載しましたが、図書館開設の準備作業がとうとう終わり、「さくまち図書館」がオープンしました。その消息を教えて下さった書状が届きました。文面からは依田さんのお人柄がよくうかがえ、わたしひとりが読者であるには惜しいものです。HPを見てくださっているすべての読者に読んでいただきたく、以下そのお便りを引用します。

依田豊さんのお便り

長野県「原村星まつり」

天文ファンが集まる祭典、第11回「サマーホリデーin原村星まつり」が8月6日から開催されています。初日6日、「ワンダートーク“月と太陽の暦”」と題する対談を写真家の田中千秋さんと行ないました。田中さんが月暦の有用性やスローライフの重要性について話を導いてくださり、わたしも年賀状は月暦で出そうとか月夜には電気を消すたのしさを味わってみよう、と応じることができました。聴衆は少ない人数でしたが(今夏めずらしいという雷雨さなかの開会初日でした)、こういうときの聴衆の熱心さは格別なものがあります。子どもに聞いてもらえたこともうれしいことでした。

最近の執筆活動について

送っていただいた「びれっじ」誌52号(都市農村漁村交流活性化機構発行)を一読、時代の要請を反映したなかなかの編集内容だと感心しました。農村と都市の交流を大きな課題に掲げているのが本誌で、このなかの「農村と都市を結ぶ人たち 結(ゆい)」というコーナーでわたしのインタヴューを掲載しています。「人も生き物も農作物も、月と太陽に生かされているんですよ」という発言が大文字で踊っています。農村の仕事が月と太陽のリズムに戻れば、と本当に願いますし、「月の文化」の担い手だった農民がふたたびその文化創りをはじめたらどんなにすばらしいことでしょう。

高野山真言宗・大阪自治布教団がわたしの小文「月への想い――二十三夜という不思議な風習から見えること――」を小冊子にまとめてくださいました。二十三夜の月を待つ女性の風習について書いたものです。

UCカードが発行する「てんとう虫」誌が月の特集号を出します。9月号、8月20日発行。わたしはかぐや姫と中秋の名月について書き、監修もしています。

「望星」誌(東海大学出版会)が10月号(9月1日発売)で「旧暦を生きてみる――日本人の暮らしと味わい」を特集します。わたしも原稿を依頼され、これから書きはじめるところです。

このほか、「藍生」誌の連載「月をリズムに」が順調に進んでいます。8月号では「月暦文月七月月の月」のタイトルで書き、9月号は「月暦葉月八月月に謝す」のタイトルで掲載予定。JA香川が出す広報誌「きらり」での連載も4月号から進行中です。

さあ、いよいよ「月の高野山」へ

今年最大の月のイヴェント、「月の高野山」の開催が迫ってきました。すでにチケットは早々と完売を果たしています。今高野山がどれほど人を惹きつけている場所かが、よくわかります。この人気は、高野山が世界遺産に登録されたということもあるでしょうが、高野山がもともともっていた魅力といった方が正しいでしょう。東京圏からも百数十の方々が山に入ります。大型バス2台仕立てての入山になります。千人の参加者が高野山を舞台にするこの歴史的イヴェントに集まることになるでしょう。このイヴェントのためにこれまでわたしたち<月>の会が費やしてきた仕事も結構なものがありましたが、主催側の金剛峰寺・教学部のご苦労に比べたら物の数ではありません。ほんとうに頭が下がります。

ウォン・ウィンツァンさんのピアノ演奏もたのしみです。この催しを存分にたのしみながら、なぜこの催しが「歴史的」といえるものなのか、空海と高野山の1200年の時空を参会者の一人ひとりがかみしめることができるような会にすることができれば、と心しています。

「月の高野山」を前にした月暦七月七日(西暦8月22日)には、四日市で七夕にちなむ催しがありますが、当日<月>の会・三重が結成される予定です。翌23日には名古屋で<月>の会・愛知に向けた会合が計画されていて、近々愛知にも<月>の会が生まれる運びです。関係する各地の方々、生活のひとつのたのしみとしてどうぞ<月>の会にご参加ください。


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