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月と季節の暦
志賀勝から一言
(2013年6月30日 月暦五月二十二日)


写真その1

夏の北海道

北海道で二ヶ所講演して来ました。

二回の講演会をアレンジしてくださったのは夕張郡長沼町でクリニックを営む高塚医師。「ポエティカ」という施設も運営していて、芸術的活動の拠点になっています。札幌から北広島市を抜け夕張郡の長沼町に入っていくと、都市的な風景から北海道の広々とした景観が広がるようになります。その一角にポエティカがありました。

写真その2
写真その3
写真その4
8年前にポエティカは建てられたそうですが、建物の周りは水を引いて池が作られ、東西軸を中心にした建築、そして内部の結構や音響への配慮など、考え抜かれた設計になっていました(〈月〉の会会員の建築家・落合俊也さんの建築に「月舞台」がありますが、大地に接して床面が設計されているなど本当にそっくりでした)。

書家・柏木志泉さんの個展も開かれていました。建物内外の空間を生かして作品が展示されていて、「ポエティカ」という空間が、思いをめぐらせ、さまざまなアイディアを育むことに歓びをもたらす場であることを知りました。

敷地からは縄文の遺物が発掘されたそうです。そして湧き水が湧いている土地だったことが高塚医師がこの場を選んだ理由だそうで、「この土地を使わせていただいています」と彼は語っていました。その言葉に医師の人柄がしのばれたのですが、朝10時に開くクリニックのはずが7時半には患者さんが来て診ることになるそうで、地域医療に果たしている役割は大きいと思われました。

来年は「朔旦冬至」の記念すべき年なので、19年ごとに月と太陽はリズムの原点に戻る、という話もしましたが、聞けばクリニックを開いたのはちょうど19年前のことだったとのこと。その縁に導かれて私がお邪魔したのかもしれません。

当夜は十四夜(6月22日)。“スーパームーン”一夜前の月、明るすぎるほどの月が見事でした。その光を「光の矢」と表現している人がいましたが、北海道でこそ見ることができるのであろう、痛いほどの射るような光を放射する月でした。


写真その5

写真その6
翌日(6月23日)は札幌・「玄米ご飯・カフェじょじょ」での講演。手稲山にはいっていく場所に店はありました。今夜のスーパームーンはまちがいなく見られるだろうと思われる快晴の日和でしたが、前日まではぐずついた陽気で、その日ようやく晴れたのだそう。ポエティカでもそうでしたが、こちらでも女性たちが熱心に話に耳を傾けてくれ、彼女等を通して月のリバイバルが静かに浸透していくにちがいないと期待を抱くことができました。

月が出る時刻と方角を見定めていましたが、月を確認すると講演を中断して月見の一時を持ちました。でかい月です。平均より3万キロも地球に近く、14パーセントも大きく、30パーセントも明るい年間唯一の見ものの月。35万キロ強のかなたにあるとは思えない堂々たる存在感で、圧倒されました。見逃した方には残念なチャンスでしたが、来年のスーパームーンをお見逃しなく。

この満月はもう一つ見どころがありました。夏至に近い満月で、太陽が北側から上がるのが夏至なら、月もまたもっとも南寄りに上がるという、両極に位置した太陽と月のドラマが想像力をかきたてる年一度のチャンスでもあったのです。

太古の人々のたましいに触れる

実は、札幌には造形作家のカビラ・ヤスオさんが駆けつけてくれました。片道3時間半かけて苫前郡から車を飛ばしてくれたのです。石垣島出身で北海道に何十年も住んで定着しているカビラさんですが、月の大ファンで、いつも私にいろいろな月の情報を教えてくれる方です。

彼はアイヌ民族の口琴楽器ムックリを持参していました。赤みを帯び、大きな、大きな満月が昇ってくると、ムックリを鳴らしながら月と呼応しはじめました。驚いたのはビデオカメラを回している人。三脚で固定しているのに、ムックリの音に合わせ、カメラが揺れる、揺れる……。音は、大気を通し、そしてまた大地をもくぐって振動を伝え、私たちの身体と心を揺さぶっているのでした(以下動画参照)。


あなたの環境ではご覧いただけません

動画を閲覧するには左の右向き矢印をクリックしてください(動画撮影・穂盛文子)

ムックリの音はよく知ってはいましたが、シチュエーションが本当に大事なのだなと知った貴重な体験でした(7月20日から札幌で「ハルカヤマ藝術要塞 2013」が開かれますが、カビラさんは公開制作で参加するそうです)。

有翼人物像
講演旅行の機会に、フゴッペ洞窟刻画(余市市)と手宮洞窟刻画(小樽市)を見てきました。日本列島ではこの二例しか発見されていないたいへん貴重な洞窟画です。アルタミラやラスコーの洞窟画はあまりにも有名ですが、私たちの足元にも太古の人類の観念と行動を垣間見させる重要な証拠が存在しているわけです。太古といってもこの北海道の二例は紀元後の「続縄文紀」といわれる時代のもののようですが、しかしその由来の古さははるかに太古までさかのぼるもの。洞窟の壁に陰刻された図像の中には、羽をもった有翼人物像(左上画像参照)があります。意識が対外離脱して「空を飛ぶ」ことができたシャマンの姿です。あるいはまた、ヘロドトスが『歴史』(紀元前5世紀)の中で記した、「ネウロイ人(ヨーロッパ北方の民族)はみな年に一度だけ数日にわたって狼に身を変じ、それからまた元の姿に戻る」ということばを如実に示す、動物に変身した人物像が刻されています。

むかし『魔女の素顔』『病気は怖くない』を公刊してシャマニズムを現代によみがえらせようとした身としては、ふたたびこの課題に挑みたい興奮を禁じ得ませんでした。(了)


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