志賀勝から一言 (2014年5月3日 月暦四月五日)
「紙衣(かみこ)」の話
前回のこの欄で催事「春宵十六夜 響けフクシマ」について報告しましたが、この催しのために「紙衣」という衣裳をあつらえてもらい講演に臨みました。紙衣は江戸期の俳人の普段着で、彼等の文章でときどき見ていたものでしたが、親しくお付き合いしている美濃和紙の職人の加納武さん(幸草紙工房)が、この衣服の素材である和紙を復活しているのを知ったのは昨年のこと。早速、手漉き和紙を柿渋で染めたもの(雨などに強くなる)を12枚作っていただき、手仕事上手の〈月〉の会会員穂盛文子さんに作務衣に仕立ててもらったのが写真に写っているものです。縫い上がった後に水に溶いた蒟蒻粉を全体に刷毛で塗ることで、丈夫さも増すそうです。日本文化の伝統や風土に合った生活の連続を肌で感じることができます。縫製は月がいろいろなところにあしらってある、手の込んだユニークなもの。それほど高額がかかるものではないので、自分も作ってみたいという人が現われるといいのですが。
〈月〉の学校・弥生例会のご報告
如月二月満月のこの「春宵十六夜 響けフクシマ」に続き、次の満月となった弥生三月の一夜(西暦4月14日)は、いつもオフィスで開いている勉強会・懇親会の「月の学校」例会でした。俳句結社「知音」を主宰する西村和子さんをお招きし、講演していただきました。お話では季語、季題としての「月」を系統的に解説してくださり、〈月〉の会の私たちにとり大変参考になるものでした。
講演の記念に俳句を所望したところ、西村さんは快く「春宵」のもとに連作をものし、ご挨拶くださいました。この欄での掲載が初出となり、なんともうれしいことです。
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春宵 西村 和子
大川の暮るる間際の春の月
春の月大川端へ蹴上げたる
対岸に見る見る高し春の月
春宵の月の模様の小座布団
傍に惑星赤し春の月
春の月高まり光増しにけり
屋形船春灯暗く戻り来し |
例会には「知音」同人の方々も参加されましたが、高橋桃衣さんにも一句寄せていただきました。
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春月を泛(うか)べたりけり厩橋 桃衣 |
〈月〉の会はさまざまな俳句結社に属する方々もいて、当日参加された鳥井月清さん(「藍生」所属)、本谷英基さん(「馬酔木」所属)にも作句していただきました。
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鳥井 月清
大川をくだる舟あり春の月
潮の香のふいとしてくる春の月
ゆくりなく春満月に厩橋 |
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本谷 英基
江上へ春の満月昇りけり
春満月しづくこぼして昇りけり
春満月火星ともなひ中空へ
| この日の俳句の題材にもなった、十五夜の月と火星(左下)。 この夜は火星が月に大接近した特異日でした。 |
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オフィスの前には隅田川の水が流れ(俳人の方々はみな古くからのこの川の名「大川」をお使いになります)、バカ高く屹立する「六三四(ムサシ)塔」(私のことば。スカイツリーのこと)全体を目にする場所にあり、月の出を見るには最高の位置にあります。いずれの句も、オフィスの場所的立地を際立たせてくれるものであり、大変ありがたいことです。 |