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月と季節の暦
志賀勝から一言
(2012年6月27日)

今日は月暦で五月八日上弦の日ですが、「西暦は月暦よりひと月遅れ」という誤った俗説が相変わらず目に付きます。今年の五月一日は6月20日で、この間ひと月と二十日もあり、「月遅れ」どころではありません。月暦と西暦はそもそも仕組みが違い、毎年およそ二十日から五十日にわたって変動するので、一回一回判断しなければならず、「ひと月遅れ」というような西暦側に寄り添った方便に安住するようでは現実を反映しません。

金星太陽面通過の観望会を実施(6月6日)


金星の太陽面通過

東京・駒形から見た金星の
太陽面通過(撮影・穂盛文子)

さて、金環蝕を迎えた催しについて前回報告したばかりですが、部分月蝕をはさんだ金星太陽面通過もイヴェントとして観望会を設定しました。あいにくの雨天・曇天で楽しめないかとほとんどあきらめていましたが、9時から望遠鏡を隅田川遊歩道に設置、太陽の顔見世を願っていました。本当に幸いなことでしたが、12時半ごろから雲が切れはじめ、13時ごろからときどき捉えることに成功、太陽の中にぽつんとある金星の最終局面を見ることができました。〈月〉の会の会員は朝早くから三々五々集まってきましたが、この瞬間を逃した方々は誠に残念でした。

次の楽しみな天体現象は、7月15日、16日両日の深夜から薄明の時刻をピークにした月、金星、木星の会合。金星はつい先日まで西の空に夕方いたものですが、早くも明けの明星となって東の空に現われていて、木星と接近して出ています。月が細くなっていくとともに三星が近づいていくのです。午前3時から4時前までがいいでしょうか、明け方前の東の空が見ものです。おうし座の中にいる二十五夜、二十六夜の細い月の近くに大きな二惑星が輝き、漆黒から薄明かりへと変わるグラデーションとともにきっと素晴らしい空が堪能できるでしょう。

ホタルイカの「身投げ」に一言

富山湾に生息する日本固有のホタルイカの生態について有益なテレビ番組がありました(6月18日)。季節の風物誌のような生き物で、美しい青の発光が魅力的ですが、番組は「ホタルイカの身投げ」という現象に焦点を合わせていました。地元の言葉ということでしたが、海の生き物ですから海岸に打ち上がって死んでいく奇妙な現象です。新月ごろこの現象が起こるとのことで、月光がないために方向を見失ってしまうことから起きるのではと説明されていました。いかにも誠実さがうかがわれる甲南大学の研究者・道之前さんという方の調査を追った映像でしたが、実に興味深い話でした。ホタルイカは夜行性ですから月に着目してさらに研究が進められていくことが望まれました。

月の光で方向を失って「身投げ」するというのが番組の解説でしたが、産卵を終えたホタルイカが大量に海岸近くの海中に死んでいる映像も映っていて、新月前後産卵し命を終えていくと見た方が正解と思われました。月の光が問題なのではなく、新月に同期して産卵している事実が語られるべきでしょう。

大潮は新月後、満月後に数日間発生しますが、海洋生物は(そして海で産卵するアカテガニといった陸上生物も)この大潮を狙って産卵するものが多く見られます。集団で産卵すれば生き残る確率が高くなるし、産んだ卵が大潮の激しい海流に乗って拡散し、遠くまで運んでくれる有利さがあるからでしょう。ホタルイカが満月時に産卵するのではなく、新月時の産卵するメリットを考えてみましょう。これこそ月の光がないことによる暗闇により卵が捕食されにくく、安全がより確保されるということではないでしょうか。夜の暗闇という条件を考えてみると、新月の一、二日前から月暦の二日まではほとんど闇で都合がよく、三日月からの昇り月夜も夜早く沈んでいくので、生存に有利といえます。

気になるウナギの高騰

ちょうどタイムリーですが、ウナギの研究者として知られる塚本勝巳さんの一般向け本が出ました(『ウナギ 大回遊の謎』PHP研究所)。ウナギは新月ごろマリアナ海溝で産卵しているのではという仮説を立て、長年月の海洋調査の末、ついにその仮説の実証に成功した研究者です。塚本さんは新月仮説の発見を「驚くべき」ものだったと語っています。月が産卵のリズムを決めている、それは「意外」な発見だったのかもしれません。月がもっているさまざまな「力」を考慮に入れない文明に生きている私たちにとって大いに教訓となります。塚本さんの仮説実証に向けた執念、粘り強さも驚くべきものでした。そのドキュメントは一見の価値があります。それではウナギはいったいどういう仕組みで新月を認知しているのか、そして月が海洋生物はじめ私たち人間にまでもおよぼしているだろう影響についてまで大いに想像力をかきたてられます。

ホタルイカの産卵もやはり新月を目指して行なわれているのだろう、という推測がテレビの映像からも見て取れたし、塚本さんの仕事からも言えるはずです。

ちなみに、「月と季節の暦」は2008版で「月時計──月を知る生き物たち」を特集し、月のリズムをさまざまな生命活動に生かしている12の生物についてまとめています。人間の体内時計(生物時計)についても注目が集まる昨今ですが、月と生物についてまとめたものはこの暦特集が唯一のものと思います。バックナンバーでお確かめください(クリック)。『月 曼荼羅』においても、知られる限りの情報を収録しています。

不定期連載の2回目

「月と季節と農業」の不定期連載 2回目は、新月・満月の海水を使った農法に取り組んでいる「社会福祉法人 佐賀西部コロニー」を紹介します。

先日〈月〉の会会員で運営している伊豆西海岸のペンションに行き、小豆の品種「ツルアズキ」を植えてきました。〈月〉の会・佐世保の斡旋で対馬から送られてきた希少品種、土地では「メナガ」と呼ぶ小豆とのことで、東京の会員で農業に携わっている方々に分け栽培してもらうことになったものです。佐世保の会は対馬に残る貴重な神事「対馬豆酘赤米神事」を応援していて、そのご縁によるものです。大事に育てるつもりです。(了)

「月と季節の農業」第二回
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