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月と季節の暦
志賀勝から一言
(2013年5月20日 月暦四月十一日)

二十六夜山(南伊豆町)に登る

日本の月見の作法は、上がった月を観賞するというのではなく、月の出前から月を待つこと、という風に考えられると思ってきました。実際、月に出のダイナミックスさを体験すると月見の醍醐味が堪能できますが、それ以上に、月を待つことの精神性といったものが日本文化には濃厚に感じられるのです。

「月待ち」という言葉に、その精神性が宿っています。二十三夜とか二十六夜とかは夜遅く出る月ですから、よほど心に響く誘引がなければ、わざわざ待って月を拝む風習など考えられも知れません。しかもこの風習は、津々浦々、日本列島の庶民がかつて営々として営んでいたものなのです。

山梨県に二十六夜山が二つあり、そのうちの一つは調べるために登って『新版 人は月に生かされている』に報告を載せましたが、静岡賀茂郡南伊豆町にも同名の山があることは以前から知っていて気になっていました。5月の連休に登ろうということで〈月〉の会の方々に提起していましたが、下見に調べに行くと地元の方も放棄した山になっていて、登山道も崩れていて、登山は無理と判断せざるを得なかったのが直前の状況でした。

登山開始
枝を払いながら登り始める

手水鉢?
ちょうど半分程登った所。手水鉢?

道なき斜面
ひたすら道なき斜面を這い登る

(各写真はクリックすると拡大
 します。以下、このページ同)


事情が変わったのは、この山について相談していた、月暦を使ってくださっている松崎町の方がご夫婦で下見登山してくださり(土地の人がかつて利用していたルートとは別でした)、案内を買って出てくれたことでした。このご好意がなければ不可能な計画で、月暦のご縁が誠にありがたく、お蔭で私たちの一念が通じて計画が実現の運びとなりました。

わずか310メートル強の山ですが、中途からは道もなく、藪漕(やぶこ)ぎ状態の登頂、下山で、挑戦した方々はハラハラどきどきの体験だったと思います。頂上にたどり着いたとき、私たちの苦労が報われました。広々とした石造りの人工物が現存していたのです。月の出る東側に向かって祭壇のようになって平たくされたその石造りは、供え物をするためか、東側が高くなっていて、20人ぐらいが茣蓙(ござ)でも敷いて座り、集会しつつ月を待てそうな空間となっていました。

石造物を囲む木立の間に海や町が望見され、高くなった木を伐って整地すれば、黒潮洗う南伊豆の海陸を眺望する壮大な景観が得られるだろうと想像されました。実際、15年前に山に行ったことがあるという村人(吉田という村で、70代半ばの方)から、三方に海が見え、北には富士の頂が見える立地、という話を聞いていました。


「二十六夜山」の標識
頂上にはまぎれもない「二十六夜山」の標識が


階段状の石造物

祭壇のような階段状の石造物も

二十六夜山の由来を知る村人はいないようです。地元の教育委員会も知識を持ち合わせていません。伝承なく、記録なく、二十六夜という名だけを頼りに山登りに挑戦した私たちですが、石造物を見つけたときは、考古学上の遺跡発見のように興奮したものです。しかし、この「遺跡」が月待ち信仰の場であったことは明らかなのです。明治期までその営みはあったかもしれません。夜中まで人びとが集い(二十六夜の月は夜中に出ます)、暗い中で人びとが過ごし、鋭い形状で月が上がるときにはあたかもそれを神のように迎えたであろう姿を想像すると、現代に生きる私たちには実に途方もない営み、という落差を感じるほかありません。ともあれ、打ち捨てられて省みられなくなっていた山の再発見でした。〈月〉の会らしい冒険だったと、満足しています。今後、山を訪ねる人が出てきて、この山の素晴らしさが再認識されることを願って止みません。


巨石に微かな文字の跡
巨石には微かに何か書かれた跡が残っていた

山陰での活動報告

松江の講演会場
毎年島根の松江で講演の機会がありますが、4月28日には裏千家の研修会に招かれました。茶道では「正月は十一月」という伝えがありますが、この十一月は月暦の十一月のことで、「朔旦(さくたん)冬至」に関わる面白い由来を持っています。説明は長くなるので省きますが、そんなことを話しつつ、茶道について勉強する機会ともなりました。

会場は、しんじ湖温泉の一隅にある旅館。宍道湖の北側に立地し、講演前夜十八夜の月にほれぼれとする幸運に恵まれました。宍道湖は東西に長く南北に狭い湖ですが、指呼(しこ)のあいだにある対岸の南東側から月が上がり、湖に月の道を輝かせた光景は絵のようでした。写真に収めることも忘れ、月光浴に我を忘れました(笑)。水の都である松江は、太陽(夕日)がふさわしいのではなく、やはり月とカップルであることを改めて実感しました。

「月的寓居」のご紹介


住宅建築2013年6月号

当サイトでたびたび活躍ぶりを紹介してきた建築家・落合俊也さんの「月的寓居(ムーンハウジング)」ほか作品の数々が、隔月誌「住宅建築」(建築資料研究社)2013年6月号に紹介されています。恩師・杉坂智男さんの事務所の60周年記念特集ですが、かなりの部分が落合さんの手がけた建築となっています。杉坂さんへのインタビュアーを務めるほか、ご自身の筆による作品解説も多数。カラー写真とともに、環境と共生するその魅力を余すところなく伝えています。


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