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月と季節の暦
志賀勝から一言
(2015年6月16日 月暦五月朔日)

カオリショウブと花ショウブ

ショウブ写真
端午の行事に欠かせない「軒ショウブ」
(写真は〈月〉の会・深谷の
2012年行事にて撮影)


今日から皐月五月がはじまります。四日後は「端午の節供」。伊豆高原にある「月のアジール」で歳事を予定していて、歳事に必須のショウブ調達のため近くにある菖蒲園を訪ねたところ、折から花ショウブは真っ盛りでした。ところが、端午に使うショウブは花ショウブではありません。カオリショウブという別種のもので、こちらはサトイモ科、花ショウブはアヤメ科、二つはまったく異なる種なのです。幸いにも、菖蒲園の経営者はカオリショウブも育てていてくれました。僻邪のための強い香りのあるショウブでなければ歳事の意味を成しません。

菖蒲園の経営者は端午の節供のためのショウブと花ショウブを誤解する人が多くてとても説明に困っているという話を聞かせてくれました。同じ「ショウブ」なので、ショウブといえばアジサイと同じく梅雨どきに花を咲かせる花ショウブとばかり思っている人がほとんどでしょう。このような誤解のもともとの元凶は端午の節供を西暦にしてしまったことにありますが、行事の西暦化は本当に日本人の季節感を失わせてしまいました。昨今は“日本褒め”ばかりがまかり通っている世相ですが、事実として、季節感を失った日本人がいるのです。

月夜野の星野さんとの交流

群馬に月夜野という土地があります。名前が美しく土地もいいところだったので、たまたま用があって訪ねた会員が思わず泊まってしまった、という話を聞いたことがあるような土地です。

暦の利用者を通してずいぶんたくさんの地名になじんできました。神奈川の大和市のつきみ野とか宮崎県の月見ヶ丘とか、月が入った地名は全国に実に多く、月と親しんできた先人の歴史がしのばれますが、それらのなかでも月夜野は独特な語感があり、人口光のない夜を意識させ、古典文学の気配を漂わせるような情緒が感じられたものです。

その月夜野で、月を主人公にした町づくりを提案している方がいます。星野上さんという方で、ホームページ「月夜野百景」  http://www.tsukiyono100.com は、月の風景、四季折々の見るべき土地の風景など、一見して土地の匂いまで感じられそうなサイトで目を楽しませてくれます。どうぞクリックしてご覧ください。


月夜野百景HP

月夜野町は現在はみなかみ市に統合されて町名が消えてしまっているようですが、月夜野の名を生かし、よみがえらせつつ、月夜野の名にこだわった町づくりを提案しているサイトですが、月に関係した項目はたいそうな充実で、月のある風景は月夜野のどこでもいいようですが、特に利根川を見下ろす台地から外光に妨げられずに月の出を望む場所が提案されていて、月待ちには理想的な所だろうと想像されました。会員に閲覧を勧めたところ、どなたからも好評を博したのがこのサイトです。

先日その星野さんがご夫婦でオフィスを訪ねて来られ、懇談する機会がありました。月夜野の景観への思い、地元が歩んできた歴史へのこだわりから未来を紡いでいこうとする熱い思いをうかがうことができました。世には観光観光した話ばかりが多く、金銭ばかりがちらついているような「町おこし」も多いものですが、星野さんの話が信頼できたのは、住民の自治、という重要な問題を提起していることで、私たち〈月〉の会は旅行を計画するとき地域の人と会って語り合うことを大きな目的にしてきたものですが、さまざまなことに自覚的な住民がいて土地のすばらしさを支える地霊のようなものがバックを支えているということになれば、人はおのずから月夜野という土地に惹かれることになるでしょう。私たちの会も関わりを持たせていただきたい土地だと強く思われました。

住民の自治というものが再生していくためには、この数十年のあいだに失った行事や歳事の再生が近道の一つかもしれません。たとえば「十日夜(とおかんや)」といった子どもが主役ともいえた歳事がありました。関東と長野で、冬に入った十日の月の日に行なわれてきた有名な歳事ですが、現代日本はこのフォークロアを消滅させました(西暦に直して継続している地域が一、二あるようです。60代になる私たちの会員に子どものころ埼玉での十日夜行事を体験した人がいて、忘れがたいその思い出をよく聞かせてくれています)。

埼玉県秩父市はさまざまなフォークロアを残しているユニークな土地として全国に知られていますが(私たちの会も秩父神社でお世話になったり、二十三夜寺とともに月待ちの行事を行なったりしたことがあります)、その秩父のある地区で十日夜を数年前に復活したところがあります。さすが秩父だ、と感心しましたが、このような動きこそ「住民の自治」を構成する重要なポイントといえるでしょう。どうやら星野さんの土地でも十日夜と接点のある人がいるようです。月夜野地域の歳事について今後とも教えていただき、語り合うことが楽しみです。

星野さんの奥さんも歳事の記憶を豊富に持っている方で、地域づくりの中で今後その体験を生かしていかれる方だと思われました。正月の若水汲みの思い出話をうかがいましたが、月暦の正月を営むとき行事中の行事として若水にこだわってきた私たちとして、とてもワクワクする体験談でした。

いずれ星野さんにこのHPでも語っていただきたく、登場をお願いするつもりです。


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