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月と季節の暦
志賀勝から一言
(2007年4月8日)

「0時」で日付けが変わるのはおかしい?

4月3日は満月でしたが、その瞬間時刻は2時15分、日付けが変わってまもなくのことでした。3日が満月というと、普通は3日の夕方に昇ってくる月を考えてしまうでしょうが、2日に上がってきた月の延長と考える方が正しいことになります。0時をもって日付けが変わるとする時間の捉え方が曲者(くせもの)なのです。

4月1日に横浜の読売・日本テレビ文化センターで月の講座があり、「3日が満月ですね」と話しましたが、この日にはいち日の始まりは一体いつなのか? というやりとりがあったこともあり、満月は3日という説明は必ずしも正確ではなかったと反省。

0時をもって日付けを区切ると、同一の夜が二つになり、0時をまたぐ同じ月は昨日の月、今日の月と分けなければならないことになります。これは馬鹿げた話で、「月と季節の暦」では混乱を避けるために新月と満月の瞬間時刻を掲載するようにしていますが、実はいち日の始まりが0時からというのは改めるのがふさわしいわたしたちの時間意識の落とし穴。

ラマダン入りは新月の確認から、クリスマスはイヴから始まるいち日のこと、というように、イスラム世界でもキリスト教世界でも夕刻からいち日が始まるとするのが本来の捉え方です。日本を含めた内外の古典を多少かじっただけでも、いち日は夜から数えるとする記述に接することがままありますから、古代から現代に至るまで、夕方、夜をいち日の節目とするのが普遍的時間感覚なのではと思われます。そしてこの捉え方だと、夜の全体と昼間を含めていち日がスッキリと収まるではないですか。

わたしたちの時間感覚をよく示す、月待ちの風習

現代では忘れられ、わたし自身も知らなかった三日月信仰とか月待ちの風習の実態をボチボチ調べ始めて二年ほどになりますが、二十六夜の月待ちの風習を考えてみると、問題がより一層明らかです。二十六夜の月はいわゆる丑三つごろの真夜中の出になりますが、日付けでは二十七日に入っているものの、二十六日の延長で月の出を待つ風習。つまり夕方からいち日が始まるという時間感覚がなければ考えられないことになります。こうして色々な事実がわたしたちの常識に異を唱えています。

満月のことに戻れば、現在の時間の仕組みでは今回のように2日か3日か困ってしまう現実があったわけですが、正確にいつが満月かということより、「十五夜満月」ということばがあるように──十五夜が満月でないことはしょっちゅうあり、その意味では不正確なことばですが──、円ければ満月と考えた江戸人的なアバウトな感覚がいいのでは、とわたしは考えています。

茨城に「二十三夜待ち」の跡を訪ねて

同じ月待ちでは二十三夜待ちが全国的に見ていちばん盛んに営まれていた風習でした。各地に建てられた石塔の写真がわたしの手許に随分集まってきましたが、先月は茨城県に出向いて「二十三夜尊」(水戸市)と「月待の滝」(大子町)を訪ねました。

桂岸寺境内にて 桂岸寺外観
水戸市松本町にある桂岸寺、通称「二十三夜尊」

「二十三夜尊(勢至菩薩)」を祀るお寺は「桂岸寺」が正式な名ですが、通称の「二十三夜尊」のほうが有名になっているほど二十三夜の月待ち信仰が盛んな地域にありました。

「月待の滝」は袋田の滝の近くにあり、何も知らずに名前に惹かれて寄ったに過ぎなかったのですが、コンクリートが折角の雄大な滝を殺風景にしている袋田の滝の光景と違い、情緒溢れ、水を楽しむことができる素晴らしい滝でした。

「月待の滝」石碑 観音像 二十三夜塔 月待の滝
月待の滝と観音像。落ちる水や池で戯れることができ、親しみの持てる滝。近くに二十三夜塔もありました

この滝の名の由来も、二十三夜の月待ちからきているのでした。滝のすぐかたわらに観音が祀られ、二十三夜講の事跡が記されていました。この月待ちは、主に村の女衆の寄り合いで、今では形ばかりのものになってはいますが(それでも重要な女性たちの寄り合いに変わりはありません)それでも残っているとのこと、感動したのは滝のほとりでそば屋を営む「もみぢ苑」(ご主人の大関さんが丹精こめて作ったそばを出してくれます)の奥様が月暦の二十三日に毎月観音にお供えしてお祈りしているとの話でした。「二十三夜尊」でも正月二十三日(西暦3月12日)に縁日が開かれたとの話を聞き、いわゆるレッドデータだとばかり思っていた二十三夜月待ち、その復活の手がかりを得た思いでした。

この偶然の出会いは本当にラッキーでしたが、知らないことばかりだなと思い知らされた体験でもありました。

これからの行動計画について

長野県・原村で開かれる恒例の「星祭り」は、今年は8月3〜5日の開催になります。実行委員長の堀内さんから先日連絡あり、今年のテーマは月とのこと。月ロケットが飛ぶこともありますが、今年は月への関心が高まる年になることは確実で、天文ファンのあいだでも近年月が注目されているという背景があります。

同じ8月は、七夕が19日の日曜、そして28日には待望の月の出帯食が観測されることもあり、忙しい月になりそうです。

6月1日(満月)と2日、〈月〉の会・東京では十和田湖・弘前の「月見・農家交流ツァー」を企画することになりました。十和田湖での月見、そして弘前での「奇跡のリンゴ」農家・木村さんらとの交流など、楽しみが色々セットされた旅行です。詳しくはスケジュール欄をご覧ください。

その他短信

「現代農業」の最新の5月号に、「月のリズムと作物のリズム」の特集が掲載されています。

「神奈川新聞」3月10日一面コラム「照明灯」に、月暦正月が日本で失われたことの重さを指摘する一文が掲載されていて、楽しみつつこの正月を復活している〈月〉の会として大変参考になりました。送ってくださった横浜の北沢さんに感謝。(了)


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