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月と季節の暦
志賀勝から一言
(2012年3月17日)

惑星の賑わい

木星と金星

左下に輝く木星、右が金星。
2011年3月15日に志賀撮影

前回更新から間をおいてしまいました。今回は近々楽しめる天体情報、今年の予定、西浦田楽について更新します。

金星と木星が接近しています。東京では曇天、雨天が続いてチャンスに恵まれませんでしたが、最近ようやく晴れの日が続いたので、もうご覧になっている方も多いでしょう。弥生三月がはじまって若い月のとき、月と共に金星、木星のある夕空、夜空が展開します。特に、弥生四日月に当たる3月26日は月が二惑星に上下をはさまれた特異な光景が西空に見られるはずです。お見逃しなく。東の空には火星や土星も見られるようになりました。「月と季節の暦」をお使いの方は、「惑星出没時刻表」で月や惑星の状態が分かりますので活用してください。

大震災から一年

さて、時間が止まったかのように震災から一年が過ぎていきました。一つの時代が終わり、新しい時代が始まるはずですが、皆さんご存知のように新しい時代の息吹はまだ地平から姿を見せてはいません。この冬の、例年にない雪や寒さが人びとを殻に閉じ込めたように、変わらない現実を前に立ちすくんでいるようです。被害の甚大さ、特に放射能の惨禍が人びとを身動き取れない状態に追い込んでいるということもありましょうし(政治や行政の側のサボタージュはもちろんですが)、伝えられているような来るべき災害が人びとを身構えさせて判断停止の心理状態にしているようです。核時代はダモクレスの剣が頭上に釣り下がっている状態によくたとえられてきましたが、その剣が実際に振り下ろされた時代状況、その現実に日本社会はまだ戸惑っています。

私たちもまたこうした状況と無縁ではありませんが、再生する月のように今年を「再生元年」とするために行動していきたいと思っています。

西暦1月23日に新年を迎え〈月〉の会の活動は、新年会、小正月行事、そして3月8日には最初の「月の学校」として日本の月信仰について重要な著作を発表している三浦茂久さんの新著『古代枕言葉の究明』(作品社)を取り上げた勉強会を行いました。枕詞は普通意味も考えずに飛ばしてしまう言葉になってしまっていましたが、三浦さんの労作は枕詞の由来、意味を解き明かし、『萬葉集』などの作品群の解釈がたいへん豊かなものになりました。特に圧巻なのは、枕詞の多くが月との関係で解かれたことです。これからは月を無視して古典を解釈していくことは困難になっていくことでしょう。

今後の活動についていくつか計画がまとまったものがあります。まず、今年は特異な天体現象がいくつも見られる年。5月21日早朝の金環蝕はそのもっとも派手な機会になるでしょうが、山梨県南アルプス市で前日から交流と天体観望の催しを開き、金環蝕を迎えます。「金環のアルプスへ!──交歓と天体観望の集い 於南アルプス市──」というタイトルが決まりました。

もう一つ。昨年は、東京での催しを企画していましたが震災により挫折しました。今年の中秋名月は東京で催しを、との声が〈月〉の会会員から挙がり、「竹取物語」をテーマに東京荒川区の本行寺(通称月見寺)で和楽と講演の催しが計画されています。これらについての詳報は次回以降の更新でお伝えします。

「ワークショップ」を企画中

月のリズムの暦が新しい時代を支える「時間」になってくれるよう、生活に根付き、地域再生の道具となればと願い、今年は条件のあるところで「月と暦のワークショップ」を企画しようと考えています。月や暦についてみずから納得し、人にも説明できるような能力を集中的な勉強と討論を通し実現しようという試みですが、その最初として4月上旬金沢市で月見、花見、食事会を兼ねてのワークショップを開くことになりました。昨年の八朔は白山ヒメ(※)神社を舞台とする催しでしたが、そのご縁で金沢市の方々のあいだで月や暦に関する関心が高まった結果です(詳細はスケジュール欄参照=クリック)。

※ …… しらやまひめ、ヒ=比、メ=口偏に羊

今年も田楽の郷、西浦へ


西浦田楽、2012年2月

日の出前の朝に入った西浦田楽のひとコマ。2月10日、志賀撮影

「月の出から日の出まで」をキャッチフレーズとする西浦(にしうれ)田楽に今年も行ってきました(西暦2月9〜10日)。長野、愛知との県境にある静岡県側の山間地(水窪町)で毎年月暦正月十八日から夜を徹して行われるのがこの田楽行事。月暦のリズムで行われる催事は沖縄を除き全国では限られた数しかなくなっていますが、西浦田楽は数少ないその一つで、中世以来の雰囲気を今に残し、地域の共同体や芸能のあり方を考えさせる重要な催事として現存しています。

2007年8月の皆既月蝕の機会に、西浦田楽の方々と〈月〉の会は共同で月蝕を待ちながら催しと交流の集いを営みました。2009年10月の仲秋名月も合同の催しを持ちました。当時の田楽保存会会長であった高木虎男さんとの意気投合した関係の中で実現した催しで、2010年の仲秋名月のときも第三回の催しを企画していました。返す返すも残念なことですが、その年の7月高木さんの突然の訃報に接したのでした。

高木さん(向かって左)
田楽での高木さん
西浦田楽の日、くつろぐ故・高木虎男さん
(上写真向かって左)とその演技。
いずれも2008年2月に志賀撮影


高木さんからは様々なことを学びました。行事で使う仮面を見せていただき説明をうかがったこと、西浦における年間の催事について、特に秘密として外部には絶対に公開しない秘儀について、それがどれほど震えるような感動を覚えるものなのかを教えていただいたこと。人はなぜ催事に赴くのか、その本源的な求心力や秘密といったものを教えていただいたご恩が忘れられません。

正月十八日の月はこの山間部では21時過ぎに出ます。そのころから明け方にかけて正月を締めくくる奉納行事が行われます。今年も月に恵まれた行事になりましたが、高木さんの急逝以後、遠くから西浦田楽の存続を心配していましたが、今回大勢の演技者がいるのを見て安心しました。従来長兄相続だった田楽の継承を次男、三男にも拡大して保存を図ることになったそうです。取り分けて寒い山の中で見た2012年月暦初頭を飾る催事でしたが、困難な時代の長期化が予想される日本において、希望の一つを見た思いでした。(了)


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